禁酒時代のソ連におけるアルコール中毒者は酒が無いからって接着剤を飲んでいたらしい。それぐらい人間の欲求って強いんだよな。だから私欲に抗うということは魂の昇華と言うにも足りないほどの試練が待ち構えているわけだ。今日の俺だって戦ったさ。タバコを吸いたいという欲求と。
「でも給料日来たからお金はあるんじゃないの?」
おっ。良い質問だな貴様。その通りだ、金はある。低所得には変わりないが、タバコを吸うぐらいの金は稼いでいる。しかし今日は日曜日だ。日曜日に金を下ろせば手数料という魔法がかかってしまうから、お金を少し無駄にしてしまうんだよ。それが例え百円程度であろうと、それを四回繰り返せばタバコ一箱分にも及ぶわけだ。だったら「休日ぐらいはタバコを我慢するか」という考えに至るだろ。だけどそれと同時に「休日だからこそタバコを吸ってゆっくりしたい」という欲求が沸き起こってくるわけだ。欲求と自制心の鍔迫り合い。このままではそれらがストレスへと変貌を遂げてしまい、もう二度と来ない今日という日を修羅のような形相で迎えることになってしまいかねない状況になったわけだ。そこで俺は考えたんだよ。代替案だ。タバコの代わりになるものを考えよう。
とりあえずコピー用紙を筒状に丸めたものの中に枯れ葉を入れてみた。フィルターを通さないぶん不健康な代物ではあるけども、原理的には喫煙の代用にはなり得るのではないかと思ったわけだよ。とりあえず咥えて火を点けるわけじゃん。すると火が「ヒャッハァー!」って勢いですっげぇ燃え始めたの。あっという間に唇の近くまで火はやってきて、俺はすぐにペッと吐き捨ててコーラをぶっ掛けて鎮火した。とりあえず、くせぇ。焦げくせぇ。そして口の中がちょっと苦ぇ。鼻先も少し痛ぇ。たぶんちょっと焼けた。馬鹿みたいなことをするもんじゃねぇわ。ちょっとコンビニ行ってくる。え? 何買ってくるって? タバコに決まってんだろ。この流れでコピー用紙買ってきたら俺のIQは虫ぐらいだぞ。