信じられない光景だった。頭皮の問題を抱えた中年層は少なくないにしろ、バスの最後部座席にハゲがスリーペアで並ぶ確率はあまりにも低いのではないか、と感動すら覚える。もしかしたら彼らはハゲの妖精なのではないかとさえ思った。眠れる森の美女に出てきた色別に分かれた魔女のような役割を担う、三人でバディを組んでいる妖精なのかもしれない。だからあそこにハゲが密集しているのかもしれないと。
「ありがたや」そう心の中で呟いて、僕は最後部から一つ前の座席に座る。窓際に腰掛け、カバンを膝の上に載せた。そこで奇跡は連鎖した。なんともう一人ハゲがバスに乗ってきたのである。しかも、最後部の座席に座った。これでフォーカード。僕の背後でハゲ・カルテットが奏でられているという計算になる。これは凄いことである。仮に日本人の2割(少子高齢化の影響)がハゲだと計算して、日本には現在3千6百万人程度のハゲがいることになる。各都道府県でハゲを均等に割った場合、一つの県に約77万人のハゲがいることになるが、その中でバスを利用するハゲはどれぐらいいるだろう? ホームレスや職場が自宅付近にあるハゲ、電車や自家用車を利用するハゲもいることを考慮して、大体1割程度と考えるのが妥当だろう。つまり、一つのバスの最後部座席にハゲが密集するということは凄まじく低い確率と言える。
僕はこの場を以って、奇跡の証人となったのだ。ハゲは見事に揃った。それも四重奏。僕の後ろでバスの揺れに身を任せ、ゆらゆらと揺れるハゲ。さながら稲穂の波に揺れる春風のよう。バスはハゲの旋律を奏でながら、夜の町へと消えていくのだ。俺は真剣な顔で何書いてんだ。
【拍手返信】
>怖い話なんか新鮮な感じがあって面白いな。長文も苦にならない
こういう文章のほうが書き慣れてるので嬉しいっす。ウッス。
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